「AI版ソローのパラドックス」と生産性の未来
1987年、ノーベル経済学賞受賞者のロバート・ソロー氏は、「コンピュータ時代は至るところに見られるが、生産性統計の中には見当たらない」と述べ、技術の普及と生産性向上との間に見られるギャップを指摘しました。これは「ソローのパラドックス」として知られています。
そして現在、私たちは「AIは至るところに見られるが、生産性統計の中には見当たらない」という、「AI版ソローのパラドックス」とも呼べる状況に直面していると言います。ChatGPTのような生成AIや自動運転技術が急速に発展しているにもかかわらず、マクロな生産性統計にはAIの明確な影響がまだ見えにくい、という現状は、確かに私たちが感じていることかもしれませんね。
しかし、このパラドックスは時間が経てば解消される可能性が高いと、コラムは示唆しています。1990年代後半からの米国の生産性急上昇が、コンピュータと情報技術が社会に「補完」関係を築き、定着するまでに20年以上かかったことを考えると、AIもまた、社会に正しく組み込まれるには時間と変革が必要だということでしょう。私はこの見解にとても共感しました。新しい技術が社会に浸透し、真の価値を発揮するには、私たちの側の準備が何よりも大切なのですね。

AIの本質は「予測コストの劇的低下」
では、AIとは具体的に何を指すのでしょうか。このコラムでは、トロント大学のアジェイ・アグラワルらの著書に基づき、AIを「予測のコストを劇的に低下させる技術」と経済学的に定義しています。

画像認識や文章生成、自動運転、医療診断支援など、AIが行うすべての活動の根底には、「ある条件の下で何が起こるか」を確率的に推論する行為があります。人間が行えば時間と専門知識が必要だったこの「予測」を、機械が安価かつ大量に行えるようになることこそが、AIの本質だというのです。
予測のコストが下がると、その利用が増え、その補完財である「判断」「データ」「行動」の価値が上がります。一方で、代替財である「人間の予測労働」の価値は下がると考えられます。これは非常に分かりやすい視点ですよね。例えば、経理の仕事では計算予測のコストが下がる代わりに、社員とのコミュニケーションや倫理観を持った組織運営といった「判断」と「行動」がより重要になる、といった具合です。AIは人間を置き換えるのではなく、人間が担うべきタスクの中身を変える、という考え方は、私たちがAI時代を生き抜く上で非常に示唆に富んでいると感じました。
「47%が消える」議論の真実
2017年に発表された「米国の労働市場の約47%の職業が自動化のリスクにさらされる」というオックスフォード大学の研究は、世界中で大きな話題となり、「AIに仕事を奪われる」という不安を煽りました。私も当時、その数字に驚いた一人です。
しかし、このコラムでは、その後の経済学者たちによる反論を紹介しています。ドイツの労働経済学者メラニー・アーンツらは、この推計が「職業が代替される」と「職業の中の特定タスクが代替される」を混同していると指摘しました。実際には、ほとんどの職業は複数のタスクで構成されており、AIに代替されうるのはその一部であり、職業全体が消失するケースははるかに少ないと修正されたのです。OECD加盟国全体で見ても、自動化リスクが高い職業は約9%に下方修正されたとのこと。
この47%と9%の差は大きいですよね。この違いは、「AIができることは何か」という技術的な可能性を見積もるのか、「実際の職業の中でAIに代替されるタスクの割合はどの程度か」を見積もるのか、という視点の違いから生まれるそうです。コラムの筆者は後者を強く支持しており、私もこの考え方に納得しました。社会の中で実装されるのは、技術そのものではなく、タスクの代替だからです。AIは職業を奪うのではなく、タスクを再編成し、その再編成の質が社会全体の生産性を決める、という視点を持つことが、私たちにとって非常に重要だと感じます。
PropTech-Labと清水千弘氏について
本コラムは、不動産市場に新たな価値をもたらすことを目指す『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』から発信されています。

『PropTech-Lab』所長を務めるのは、一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授であり、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長でもある清水 千弘氏です。長年にわたり不動産研究に携わってきた同氏が、技術と生産性の研究者として、AI時代の課題に多角的に向き合っています。

この連載の続きでは、過去の歴史が教える教訓や、AI時代の「人間と機械の新しい分業ルール(予測・判断・責任の三層構造)」についてさらに深く掘り下げられています。ぜひ、公式サイトで詳細を読んでみてください。
【続きはこちらから】
https://pptc.co.jp/column/20260710_1100/
株式会社property technologiesについて
本コラムを発信している株式会社property technologiesは、「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」をミッションに掲げ、年間36,000件超の不動産価格査定実績やグループ累計約15,000戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、誰もが気軽に住み替えられる未来を目指しています。
<会社概要>
会社名:株式会社property technologies
代表者:代表取締役社長 濱中 雄大
URL:https://pptc.co.jp/
本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階
設立:2020年11月16日
上場:東京証券取引所グロース市場(5527)
編集長 KENSAKU からのメッセージ
AIが私たちの未来にどのような影響をもたらすのか、不安に感じることもありますが、今回のコラムを読んで、AIの本質を正しく理解し、人間と機械がどのように協力していくべきかという視点を持つことの重要性を改めて感じました。AIは私たちから仕事を奪うのではなく、私たちの働き方、ひいては社会のあり方そのものをより良い方向へと変革する可能性を秘めているのかもしれませんね。この変化の波を前向きに捉え、私たち自身も進化していくことが大切だと、私は思います。未来を恐れるのではなく、理解し、共に創っていく。そんな視点を持つきっかけになったのではないでしょうか。それでは、また次回のコラムでお会いしましょう!


